ある聖書注解者は、ここに書かれている一日を「主の生涯における典型的な一日」と語っています。私たちは、主イエス様がいかに中身の濃い時間を過ごしておられたかを見て驚きを覚えずにはいられません。マタイは「王としての救い主」を描いていましたが、マルコは「しもべとしての救い主」を伝えようとしています。しもべは、やらなければならない仕事が沢山あって、とてつもなく忙しいのです。
それから、一行はカペナウムに入った。そしてすぐに、イエスは安息日に会堂に入って教えられた。人々は、その教えに驚いた。それはイエスが、律法学者たちのようにではなく、権威ある者のように教えられたからである。(1:21-22)
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カペナウムという町は、イエス様が最も重要な活動拠点となさったガリラヤ湖畔の町で、マタイの福音書では「ご自分の町」(9:1)と表現されているほどです。漁師であった弟子たちの出身地でもありました。当時、町や村にはそれぞれ会堂(シナゴーグ)があり、人々は安息日ごとに集って聖書の朗読を聞いていました。上の写真は、カペナウムのシナゴーグ跡したものです。
上にも記したように、マルコは「しもべとしての救い主」を伝えようとしているので、主イエス様の教えの内容を他の福音書ほど詳しく記さず、しもべとして働く救い主の「行動」を中心に記録しています。それが大前提ですが、ここでは主イエス様の「ことばによる働き」がシンプルに記録されています。
シナゴーグに主イエス様が現われて「権威ある者のように教えられた」のです。律法学者たちにも一定の権威があったはずですが、それをはるかにしのぐ権威がそこにはありました。この後、イエス様はご自身の権威あることばをもって悪霊の追い出しをなさいます。人々はますます驚きました。この後、シモン・ペテロの家でのしゅうとめの癒しが行われ、さらに夕方からおそらく夜中まで、町中からやってきた病人や悪霊憑きの人々をお癒しになります。
イエスは、さまざまの病気にかかっている多くの人をいやし、また多くの悪霊を追い出された。そして悪霊どもがものを言うのをお許しにならなかった。彼らがイエスをよく知っていたからである。(1:34)
悪霊はものを言うことができません。主イエス様は権威あることばを語られます。これは対照的です。私たちの心、生活、家庭、教会、社会の中で、神のことばが権威をもって宣言される時に、人を惑わす悪しき言葉や考えは最終的に沈黙せざるを得なくなります。
「神のことばを教える人はみな、権威をもって語るべきである。厳然たる態度で語ることができないなら、むしろ語らない方がよい。」(ウィリアム・マクドナルド)
このようなハードな一日を過ごした後、翌朝、主イエス様は驚くべき行動をとっておられます。
さて、イエスは、朝早くまだ暗いうちに起きて、寂しい所へ出て行き、そこで祈っておられた。(1:35)
肉体的には疲れを覚えておられたはずですが、夜明け前に起き上がって祈りの場へと向かわれたのです。この章の終わりにも「寂しい所におられた」とありますが、主イエス様は寂しい所を好まれ、大切になさいました。祈りにはいろいろなスタイル、方法がありますが、寂しい所でなされる祈りは「静まりの祈り」「聴く祈り」でしょう。
自分の願いや思いをあれやこれや並べ立てる祈りではなく、心を静かにし、自分自身の思いを父なる神ご自身の思いと合わせていくような時間です。たとえば、私たちは「あの人が変われば良いのに!」と思っていたかもしれませんが、静まって父なる神様の御心を聴いていくと「神のみこころは、あなたがたが聖くなることです」(1テサロニケ4:3)といったみことばが迫って来て、「変わる必要があるのは自分だ」と悟るのです。
詩篇には「静まって、わたしこそ神であることを知れ。(46:10, 口語訳)とありますが、主イエス様の地上生涯にはいつも「これ」がありました。しもべは、主人の権威ある命令を受けて動きます。父なる神の命令にしっかりと耳を傾け、コミュニケーションを取ることが権威あることばと働きの源泉になっていたのです。
どんな人の生涯にも
先を急ぐことも道を開くこともやめ
大きなわざをなすこともやめて
休まなければならない時がある。
主権者のみこころのままに
じっと立ち止まるべき時がある。
熱気を帯びた語り合いをやめ
ため息をつくことをせず
荒野の叫びを上げることをやめて
ただ黙っていなければならない時がある。
主権者のみこころのままに
じっと静まるべき時がある。
休止と沈黙が声を合わせて
静かに二重唱を歌うのだ。
おお、人のたましいよ
神のご計画には休みがない、
人の助けを求めることもない。
立ち止まって、見よ、
静かにして、悟れ。
(ハドソン・テイラー)
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